今回お話を伺ったのは、訪日外国人旅行者(以下、インバウンド)のための一気通貫型グルメプラットフォームとなることを目指し、食体験の予約や英語・中国語でのレストラン予約サービス「byFood.com」を提供する、株式会社テーブルクロス(以下、テーブルクロス)の代表取締役 城宝薫様にインタビューさせていただきました。ご経歴から、コロナ明けの現状、サービスに対する思いをお伺いしました。
プロフィール:
幼少期のインドネシアでの経験から、社会貢献への強い思いを抱き、大学時代にCSVというビジネスモデルに出会い、20歳でテーブルクロスを設立。途上国の子どもたちへの給食支援を目的としたレストラン予約アプリを開発。2019年に同じシステムを導入していたトソ・セルカン(現COO)と出会い、レストラン予約アプリと統合。現在は「byFood.com」というインバウンドを対象としたグルメプラットフォームを運営するほか、飲食店やブランドへのコンサルティング、農林水産省や地方自治体とのプロモーション活動なども行う。
目次
まず、貴社の概要、サービスについて教えていただけますか?
「byFood.com」というインバウンド向けのグルメプラットホームを提供しています。 弊社は、海外各国から来日するインバウンド旅行客向けに、食体験を提供するサービスを展開しています。具体的にはグルメツアーや料理教室への参加、レストラン予約の代行など、地域の事業者さんとインバウンドを繋ぐオンライントラベルエージェンシー(以下OTA)として従事しています。
また、日々予約を受け付けていくと、インバウンドに対してどれくらいの単価でどのようなマーケティングをしたらいいか、などの価値のあるデータも得ることができ、弊社ではこれらの情報をデータベース化しています。このデータは地方自治体や民間企業からもニーズがあるため、弊社はOTA事業ともう1つ、先ほどのデータを用いたソリューション事業の2つの軸があることが今の経営体制になってます。
ソリューション事業についても教えていただけますでしょうか?
ソリューション事業では、地域の自治体に対して、地域の特性を活かした高付加価値商品の開発や、インバウンド受け入れ環境の整備、そしてマーケティング支援などを行っています。
具体的には、現地に市場調査に行って、食をはじめとする地域の魅力を掘り下げ、市場調査に基づいたツアーや商品を企画・開発したり、初めてインバウンドを受け入れる地域の環境整備から、ブランド、商品を作って海外に向けて発信することまでご一緒させていただくこともあります。
他の国内OTA事業者にはない魅力を教えていただけますでしょうか?
数ある事業者の中で弊社を選んでいただく理由は主に3つあると考えています。
1つ目は、 従業員(約70名)の8割が外国籍またはバイリンガルのグローバル人材なので、日本企業でありながら海外目線を理解していることです。様々な国や地域出身の従業員がいるため、各国の旅行者のニーズの違いや日本の旅行に求めているものを理解したうえでサービスを提供できていると思います。
2つ目は、来日する前のお客様に対しての商品販売、いわゆる”旅マエ(たびまえ)”のマーケティングが得意なことです。東京の事業者さんであれば、イベントや観光案内所を通じて旅ナカ(たびなか)でのインバウンドとの接点が持てますが、そもそもインバウンド旅行客が少ない地方都市の事業者さんにとっては、いかに旅マエに予約を獲得できるかが重要になってきます。我々は、1つ目の理由であげたグローバル社員が海外各国の見込み旅行客に対してマーケティングをしているため、全体の予約のうち約9割が旅マエに予約いただいています。このデータやノウハウを持っていることが強みです。
3つ目はインバウンドに販売する商品の単価が国内で1番高いプレイヤーであることです。弊社では1人あたりの客単価が1万5000円を超えてきており、他のOTAと比べて倍以上の客単価です。したがって高単価の商品を取り扱う企業が集まってきます。
こうしたニーズが比較的強い企業さんに関しては、当社にご要望いただくような流れが増えてきていると思います。
3つ目の客単価を上げて付加価値を提供することに対して、工夫されていることはありますか?
重要視していることは、歴史的な背景や文化を、どこまで聞いて見ることができるのか、また、ハンズオンの体験を提供できるかというところです。ハンズオン体験というのは、実際に手で触れることができる体験のことです。例えば、単純にわさびをすっている作業を隣で見るのと、自分の手でわさびをすってみる、ここには大きな差があると私たちは思っていて、このように五感で感じられる体験の方が一生の思い出に残りやすく満足度が高いので、重要視しています。
次はサービスを始めたきっかけに迫ります!
インバウンド市場に城宝様が着目した理由やきっかけを理由を教えてください。
元々国内の飲食店を中心としたサービスをしていましたが、10年前にYouTubeやInstagramなどのSNSの誕生を目の当たりにして、これから飲食業界も集客の仕方が変わって来るなと思いました。そして、日本経済の失われた20年の構造を考えた時に、これから先何か大きく頑張らないとどんどん廃れていくのではないかと危機感を持っていたんです。この失われた20年を繰り返さないための試みとして、注目したのが「外貨」というキーワードでした。
日本経済が成長するためには、海外から外貨を稼ぐ必要があると考え、私がもともと飲食・観光業界に馴染みがあったこと、また2020年の東京オリンピックも迫っていることから、日本をPRするチャンスと捉え、2018年に取締役のセルカンと出会い、ビジネスの方針を切り替えました。
事業を成長させるにあたり、苦労したエピソードやタイミングを教えてください。
最も苦労したのは、急成長する会社を経営するにあたっての私自身の知識不足です。学生起業家である私は、従業員として企業に在籍した経験がなく、一般的なマネジメントや事業開発など、何か基礎があって経営してるわけではないため、人、物、金、情報についてのナレッジが全て無かったんです。
経営者の視座=会社経営の視座と同じだと思っており、 自分自身が成長しないと会社の成長にはなりません。そのため、基礎から学び直しましたが、その勉強代は高くついたと感じております。
コロナ禍でダメージを受けたインバウンド市場とそれに対しての貴社の戦略についてお聞かせください。
コロナ禍は、いつインバウンド需要が復活するかわからなかったので、マーケティングを一切せずにひたすらSEOにのみ投資してきました。
結果、SEOをひたすら頑張るという意思決定が功を奏し、2023年はじめにインバウンド重要が回復したタイミングで、私たちのウェブサイトの訪問者数がオーガニックユーザーだけで一気に月間15万人を獲得できました。コロナ禍は8万人ほどの訪問者数でしたが、コロナ明けで15万人、ちなみに2024年の現在は約40万人なので、この1年間で数倍の訪問者数となっています。
インバウンドが一気に戻ってきたことで、社内での変化はどのようなものでしたか?
当時は従業員が10人しかいなかったので、コロナが明けた後、 オペレーションが追いつかなくなってしまいました。
予約先のツアー会社に連絡すると倒産していたり、料理教室の予約が入った会社に連絡すると、客単価が違う!と言われたり、そのサービスは今はありませんと言われるなど...今まで掲載していた商品も企業もガラッと変えなければいけなかったので、カスタマーサポートも営業も全員が忙しかったです。
オペレーションが間に合わなかったので、予約が入ったレストランに私と取締役のセルカンが直接訪問しに行って、プラットフォームの登録作業をレストランの方と一緒に行うといった、そんなレベルからスタートした2023年だったので華々しい感じとは真逆でした。
そのような大変な状況をどのように乗り越えたのでしょうか?
インバウンドが戻り始めてきたタイミングで、スピーディに資金調達を行ったことが支えになりました。
2024年になり、インバウンドがさらに戻ってきたから今から、新しい取り組みを始めようと考えられている企業が多いと思いますが、弊社は早いタイミングで先行投資をする決断をしたおかげで、今、私たちは他の会社よりも有利な立場にいるんです。
2023年4月にシリーズAの資金調達を行い、スピード感を持って採用とシステム基盤の構築を行ったことで、組織やシステムを整えることができました。現時点で約70名の組織体制と自社システムの基盤構築まで終わっています。基盤に対しての投資ができたことで、例えば、連携したいと言ってくださる企業がいきなり100社来たとしても、弊社独自のシステムがあるのですぐに対応することができます。
サービスに対する思いについても聞かせてください!
インバウンドの消費単価を上げていきたいと思っています。今後の数年間でインバウンド客数は約2倍になる見込みですが、消費額が2倍になることは確約されていません。インバウンドの増加に伴い、消費単価も上げていくところは日本のこれからを担う鍵だと考えています。消費単価を上げるための一つの施策として、地域事業者と一緒に消費単価を上げる議論をしたいです。
例えば、単価5000円のぶどう狩りをどうやって5万円、50万円の商品にできるか?のような議論をどんどんしていきたいと思っています。
そのためには地域事業者もレベルを上げないといけません。「高付加価値」や「おもてなし」とはそもそもなんだっけ?みたいなところを私たちも一緒になって掘り下げていくことで、日本の観光がもっと盛り上がっていくと考えています。
次は市場の規模感、未来の展望について伺います!
城宝様が感じる市場の規模について教えていただけますでしょうか?
インバウンド市場はポテンシャルが高いと思っています。日本で外貨を稼ぐには輸出か観光しかないので、 日本企業が国内の総数を奪い合う以外に新しい売り上げを伸ばしていくきっかけになると考えています。2030年にインバウンド6000万人を目指す日本政府の目標に懐疑的な見方をする人はたくさんいると思いますが、私は6000万人達成はもちろん、今年もおそらく4000万人を到達するのではないかとも思います。
一部評論家によると、1億人までインバウンドが増えていく可能性があると考える人たちもいます。その理由としては、 世界の物価高の状況と、円安による為替差で日本が優位に働いているそうです。世界の物価高に日本は今追いつけていないので、物価が安いうちにインバウンドを受け入れて、どんどん日本としても物価を高くしていくという経済合理性に乗らなければいけないのではないでしょうか。
なおかつ、外貨を稼げる市場なので、本質的な日本経済の活性化に繋がることや、都心部だけでなく地方の市町村も同様に経済の活性化に繋がると考えています。インバウンドを誘致することによって、地域で行われる消費額が高まり、雇用者が増えるという、この循環を生んでいくことが地域経済にとって1番いいことなので、そういった観点からもインバウンド市場はとても注目しがいがあると思います。
市場の課題感についてはいかがでしょうか?
日本は綺麗で、人もいいのと、食事が何よりおいしいっていう、もう言うことのない素材が揃っているのに、アピールが下手なことが課題だと思います。
海外から受け入れるための土俵がないこともあげられます。たくさんのインバウンドが入ってきた時に改めて気づいたことが、 食事制限を持ってる人間がとても多いことです。グルテンフリーやベジタリアン、ビーガンが多い事実をきちんと国としても受け入れなきゃいけないと考えています。
最後に、オーバーツーリズムの問題があげられます。仮に政府のインバウンド数の目標が達成できたとしても、東京、大阪、京都、ここの3都市だけで6000万人は絶対に受け入れられないので、第2の都市の開拓を始めていかなきゃいけないと思っています。
未来の展望についても教えてください!
アナログとDX、AIをうまく使い分けて、インバウンドとのマッチングをもっと円滑に進められるようにしたいと考えています。
今問題視していることは、インバウンドからの需要があるのに、レストランや体験施設側の業界の供給が追いついていなくてマッチングがあまりにもできないことです。日本全体の市場を見た時に、例えばレストランは68万店舗ぐらいあるうち、オンラインシステムを入れてる店舗は10パーセントもありません。だからといって、いますぐDX化しましょう、新しくシステムを導入してくださいというやり方は、日本に合わない文化であると考えてるので、何がなんでもITから入っていかないことは常に考えています。
一方で、旅行客に対してはAIをたくさん使って、お寿司屋さんに行く時には香水はつけないでください、などの日本のマナーや教育もAIでできるような時代になってくると思っています。いかにアナログとDX、AIをハイブリッドにするかというのは、日本でサービスをやっているからこそ重要視してます。
また、今年1つ挑戦してみたいのが富裕層向けのサービスです。例えば、「1週間の旅行の予算は5000万円です」と言ってくださるインバウンドがいた時に、他の国であれば予算を使い切る旅行プランを作れるエージェントがいますが、日本で同じように作ることができるプレイヤーはあまりいません。どれだけレストランや体験を組み合わせても、目標額に到達できないことは大きな課題であると感じています。
高価なものがないことに加えて、高価なものに立ち入りにくいことも課題です。例えば、海外ではお金を払って歴史的建造物を貸し切るプランはたくさんありますが、日本ではこうしたニーズに対処することができません。貴重な重要文化財がたくさんある国だからこそ、こういった連携も必要です。
「5000万の予算を預けるからプランを作って」と言われて、1回でも日本が受け入れた実績があるかないかで大きく違うので、 実績を作るためにも挑戦してみたいですね。
城宝様、様々な質問にお答えいただきありがとうございました!
テーブルクロス様の企業情報はこちらをご覧ください。
インバウンド向けのグルメプラットホーム「byFood.com」はこちら
メンバーシップの登録はこちら
Comments